第26回 課題研究成果発表会
公益財団法人軽金属奨学会
第26回
2025年7月9日(水)
第26回
課題研究成果発表会
開催日2025年7月9日(水)
第26回課題研究成果発表会を大阪大学中之島センターにて開催いたしました。
会場・オンライン合わせて約90名にご参加をいただき、盛況に開催することができました。
会場・オンライン合わせて約90名にご参加をいただき、盛況に開催することができました。

プログラム
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研究テーマの今後への思い |
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田村 卓也 (産業技術総合研究所 上級主任研究員) 産総研に入所後、様々な材料系において電磁力を用いたプロセス開発を行ってきた。その中に【電磁分離】も存在していたが、当時、大型化や連続化プロセスに繋げられる良いアイデアが出てこなかった。今回、【電磁流を用いた高純度化】がプロセス開発のメインであったが、偶然にも電磁分離プロセスの連続化手法も手に入れることが出来た。この様な偶然を手に入れられることが研究の醍醐味かと思う。また、Al-Si 共晶溶湯において【分離共晶組織】が形成されており、分離した Al相、Si相共に液相から結晶成⻑していることも見出すことが出来た。色々調べてみると、1986 年京都大学の新宮先生がこの単語を使ったのが最初ではと推測している。どの様にギブスの相律を成立させているかなど学問的に突き止める課題も多いが、電磁分離も含めサーキュラーエコノミーに必要な分離技術としては非常に魅力的な現象であり、今後実用化につなげていきたい。 |
柳下 崇 (東京都立大学 都市環境学部 応用化学科 教授) 本研究において、Alの陽極酸化によって作製されたポーラスアルミナの細孔径を連続的に変化させれば、水滴を自発的に移動させるための濡れ性傾斜表面が作製できることが示された。しかし、現時点で、水滴が移動する距離は数 mmと短く、本技術を用いて、マイクロチップや水滴捕集デバイスなど各種応用を実現するためには、水滴の移動距離を延⻑することが今後の課題となる。表面構造と水滴移動挙動について検討を行った結果、水滴が付着しづらい接触角ヒステリシスが⼩さい表面の⽅が、水滴移動距離が⻑くなることが確認された。これまでの検討において、ナノスケールの構造とマイクロスケールの構造からなる複合表面では、水滴と表面の間にトラップされる空気の層が増えるために、接触角ヒステリシスが⼩さくなることが示されている。今後は、Alの陽極酸化にもとづいて濡れ性傾斜特性を有する階層構造の作製を行うことによって、水滴移動距離の⻑距離化を目指したい。 |
安藤 大輔 (東北大学大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 准教授) 私の研究の軸足は軽金属の中でも Mg合金にあった。Mg合金の塑性変形中に形成される変形双晶の役割を詳細に調査したり、忌み嫌われるこの変形双晶の有効利用を検討したりすることであった。その中で、変形双晶の可逆性を用いた超弾性合金が作れないかという発想から、いっそのこと TiやFeのように多形体をもつMg 合金を創ろうと思案して、世界初のMg基合金での形状記憶合金を生み出すことなどをしてきた。本研究の着想は、Al基でも同じことがしたいというものから始まったが、どうしてもAl⺟相に多形体を持つ物質が2元系、3元系では見つからず、では金属間化合物を利用しようとAl4Caに行き着いた。しかし、その超弾性回復ひずみ量は 0.1%程度と実用に及ばなかった折に、ただでは転びたくないと高温強度を計測したら比較的よい強度であったことから始まっている。この研究助成を頂けなければ Al合金の研究も行わなかったかもしれないし、機械学習を用いた研究にも発展しなかったと思う。本助成にはチャンスと大きなきっかけを頂けたことに大変感謝している。 |
池田 賢一 (北海道大学 大学院工学研究院 准教授) 私は、学生時代の研究テーマとして、結晶粒界の微細構造やその諸特性に関する研究を行っていました。対象は軽金属ではありませんでしたが、系統的に粒界性格を変化させた双結晶を作製し、特に力学特性に及ぼす粒界性格の影響を評価し、基礎的な知見を得ることができました。その後の研究では、多結晶を扱うことが多く、純アルミニウムおよびアルミニウム合金の研究では、再結晶集合組織や時効析出の研究に携わるようになりました。時効析出の研究を進めるにあたって、特にAl-Mg-Si合金においては粒界に着目した研究があまり行われていないことがわかり、合金単結晶や双結晶を作製することができれば、基礎的かつ重要な知見が得られると思い、本課題研究の着想に至りました。研究期間内に目的の結果を得ることができませんでしたが、以前実施していた双結晶の研究を時効析出現象と組み合わせて、系統的な評価を実施できる可能性が期待できるところまで進めることができました。研究開始の頃を思い出しながら、双結晶および単結晶研究を進めていきたいと考えております。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。 |
佐々木 泰祐 (物質・材料研究機構 構造材料研究センター グループリーダー) 近年、マグネシウム合金の研究者人口は大きく減少し、多くの企業がマグネシウム合金の事業から撤退しています。このような現状を考えると、マグネシウム合金が構造材料として広く使われる未来はこの目では見られないかもしれない、と思うことがあります。 課題研究のサポートを受けて行った研究では、最高クラスの特性を発現するマグネシウム合金圧延材の開発や、特性向上に向けた新たなアイデアを具現化することができました。私自身の手でマグネシウム合金の未来を切り開くことを決してあきらめてはいませんが、将来、この課題研究で得た成果がマグネシウム合金に春を呼ぶきっかけとなったとしたら、これ以上の喜びはありません。 学会で海外の大学のある先生と話をした時、「マグネシウム合金研究の新たなアイデアは、日本から生まれるね。」と言われたことが心に残っています。これからも、アイデアを形にする研究を地道に続けていきたいと思います。 最後に、軽金属奨学会と関係者の皆様に、深く感謝の意を表します。 |
松永 哲也 (宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授) 金属材料の力学的挙動における種々の疑問を解決するにあたり、実空間ではなく波数空間で捉えるという萌芽的な研究に対しても助成をいただける軽金属奨学会様の懐の深さに救われた思いです。結果として、(1)チタンやマグネシウムでみられる双晶の発生に電子状態が関与していること、(2)電子状態により発生する双晶毎に積層欠陥エネルギーを定義できたこと、(3)アルミニウムで積層欠陥が生じにくい原因を電子状態から考察できたこと、といった力学的挙動に対して新しい気づきを得ることができました。ただし、強度と電子運動の関係を解明するには至っておらず、今後も取り組んでいきたいと思っております。特に、チタンで見られる固溶体強化および軟化の原因を、元素やそれらの量が電子構造に与える影響をより詳しく調査する必要がありますので、今後も金属材料強度の電子論構築に向けて研究を実施したいと思っております。 |
松本 洋明 (香川大学 創造工学部 教授) 私がチタン(Ti)合金の研究を本格的に始動して約20年が経過します。当時(2005年)では東北大学金属材料研究所花田修治教授の下で生体用 Ti-Nb-Sn合金の低ヤング率化を達成させるための合金設計を実施し、その際に Tiのマルテンサイトと出会い、その奥深さに虜になっていきました。以降、工業用を指向してHCPマルテンサイト(α’)の可能性・将来性に惹かれ、多くの研究プロジェクト・企業との共同研究のご支援の下、組織制御、超塑性、高強度‐高延性化、プロセス開発の4本柱で⻑く研究を遂行して参りました。その中でDuplex(α+α’)組織を起点とした高延性化の可能性として今回、軽金属奨学会のご支援を賜り新しい成果を発信することができました。今後は、今も以前も同じ思いのなか、何とか実用化に繋げたい。Ti応用のゴールである航空機用に展開したい、そのような思い・希望で以降も基礎研究と産学連携をバランスさせて研究に邁進する所存です。 |