公益財団法人 軽金属奨学会 設立60年史
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86金期を過ぎた90年代の半ば、「会社はだれのために存在するのか」が真剣に議論され、株主より従業員を重視する日本型経営スタイルはもはや通用しないのではないかと真剣に議論がなされた。 しかし、この考え方には顧客という重要な視点が欠けており、やはり顧客、従業員、株主という3つのステークホルダーにとってオプティマムな価値を創造すること、すなわちゴールデン・トライアングルを目指すことが重要だと考えが出てきた。会社の経営手法にはいろいろあるが、知識経営(KM:ナレッジ・マネージメント)こそが最も意味があると思う。重要視しなければならないのは、株主でもなく、顧客でもなく、むしろ従業員だと考える。その従業員のKMで生産性は大きく向上すると信じる。一橋大学の野中教授が提唱しているSECIモデルにあるように、各個人の暗黙知を形式知として洗い出し、それを組み合わせて新たな知識を創造し、それをまた暗黙知として内面化し、最後にそれを共有してまた創造するという共同化の作業でより高次元の知識へとつなげていくことで、生産性が向上するという考え方である。 人材育成においてもう一点重要なことは、前頭葉の活性化を図ることであろう。前頭葉は、知的機能を司り、IQでは図ることのできない「もの」を考えるところだと言われている。仮説を証明するのではなく、仮説を立て、定説・常識・伝統を疑うところだそうだ。そこを活性化させるためには、天の邪鬼的な発想を持つこと、また常に好奇心を持つことが重要で、例えば毎日の行動においても同じようなパターンを繰り返さない、つまり同じ道を歩き、同じような店に通うのではなく、いつでも違った世界を覗こうとする努力をすることである。 軽金属奨学会は、軽金属に関する学術の研究及び教育を助成・奨励するために設立されたわけで、まさに人材育成そのものである。従って、上に述べたようなクロス・スキル型の連携も大変参考になるのではないかと考える。軽金属を対象として同じような研究を実施している関係者同士の集まりもいいが、たまには異業種の研究者と交流することも必要になってくるだろう。また、研究者自身、天の邪鬼的な発想で常識を疑うことで前頭葉を活性化させると、予期せぬ成果が得られるかもしれない。 以上、軽金属奨学会60周年記念ということで、「世界のアルミニウム産業の動向」と題しいろいろと述べたが、少しでも読者の皆様の参考となれば幸いである。

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