公益財団法人 軽金属奨学会 設立60年史
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63板を作製した。しかし、本手法が実用化されるためには少なくとも幅1000 mm以上の板が連続的に製造されることが必要であろう。板材を連続的に作製するには、一定の溶湯を高速で安定的に注湯することが求められ、さらに鋳造された板がコイルへと連続的に巻き取られなければならない。縦型高速双ロールキャスターにおいては鋳造速度が数十から百m/min(0.5〜1.5 m/s)と極めて高速であるため、この両方の要件を満たすために克服すべき課題はまだまだ多い。 本研究で使用した縦型高速双ロールキャスターでは、厚さ約3 mmの板材が製造され、これによって急冷による組織微細化が達成されているが、その後の薄板への成形を考えると、ある程度加工度をかせぐためには、これよりもやや大きめの板厚の方が最終的な力学的特性を考えた場合、適当かもしれない。このような観点から、縦型高速双ロールキャスターと比較すると生産性は幾分劣るが、異径双ロールキャスターの可能性についてさらなる検討を行うことには意義がある。 本研究では、ロールキャストした板材の表面性状については調査対象としなかった。通常、DC鋳造で作製したスラブは面削を行って圧延を行う。高速双ロールキャストのメリットを最大限に活かすためには、理想的にはほとんど面削を行うことなく、圧延に供したいところである。しかし、ロールキャスト材の表面性状はそのような水準に達しておらず、今後、この方面からも多くの検討が必要である。 以上示したように縦型高速双ロールキャスト法を利用し、循環型アルミニウム材料を創製するためには数々の乗り越えるべき課題がある。しかしながら、本手法が凝固プロセスのひとつとして多くの可能性を秘めた宝の山であることは間違いないと考えている。の合金を用いて高速双ロールキャスト材を作製し、引裂靭性を評価した。真空ダイカスト材に比べ双ロールキャスト材は非常に大きな引裂靱性を示し、これは急冷凝固効果による組織の微細化によるものであることを明らかにした。特にAl-Mg系ダイカスト合金では、共晶凝固組織がラメラ状からロッド状へと変化し、大きな靱性増加が得られた。 最後に、大径双ロールキャスターや異径双ロールキャスター等、新しいタイプの縦型高速双ロールキャスターの開発に取り組んだ。1500 mm大径双ロールキャスターを作製し、6022合金を高速双ロールキャストしたところ、板厚中央部の引け欠陥が低減し、割れのない板材を得ることができた。また異径双ロールキャスターにより、比較的高速度で厚さ約5 mmの板材を作製することができた。2.2 今後の課題 本研究では、アルミニウム合金展伸材の高度なリサイクルシステムを実現する上で、自動車用ボディー用材料として最も需要が高いと考えられる6000系合金、すなわちAl-Mg-Si系合金を試験対象とした。縦型高速双ロールキャストにおいては、Al-Mg-Si系合金中のSi量のわずかな違いが、ロールキャスト材の健全性に大きな影響を及ぼすことを明らかにした。本研究では、6022合金相当の組成において板厚中央部に割れが発生した。そこで割れの発生している板厚中央部のミクロ組織と鋳造条件との関係について詳細な検討を行い、板厚中央部が多角形状の結晶粒組織となる場合には割れが生じず、またこれは幾分冷却速度が低減するような鋳造条件で実現することを見出した。しかしながら、割れ発生のメカニズムを解明するには至っておらず、今後は割れの発生原因についてさらに検討を行うことが必要である。 本研究では、通常、約3kgのアルミニウム合金溶湯をバッチ式に注湯し、幅100 mm、長さ約3 mの

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