公益財団法人 軽金属奨学会 設立60年史
63/102

61設立60周年記念特別寄稿1.はじめに 本講演では、平成15、16年度(2003、2004年度)課題研究に採択された「循環型アルミニウム材料の創製 -凝固プロセスの開発と力学的特性の向上-」が、その後どのような発展を遂げているかについて紹介する。縦型高速双ロールキャスト法とは、回転する1対のロール間隙に上側から溶融金属を注ぎ直接薄板を製造する方法で、従来の横型双ロールキャスト法の10〜20倍の優れた生産性と高冷却速度による急冷凝固能を特長とする。また通常の板材製造法に比べ大幅な省工程、省エネルギーが図れる。再生資源を活用し、省工程で環境に優しい新しい合金を製造可能なプロセスである縦型高速双ロールキャスト法の開発とその応用例について述べる。2.課題研究における研究成果と 今後の課題に関する復習 まず課題研究成果報告書(平成18年(2006年)6月)に記載した研究成果の総括ならびに今後の課題について振り返ってみたい。そこには次のように記載している。2.1 課題研究成果の総括 [1]2.1.1 研究の背景 アルミニウム材料はリサイクルによる省資源・省エネルギー効果が大きく、積極的に再資源化されているが、高品質な展伸材スクラップの殆どは鋳物・ダイカスト用へとダウングレードリサイクルされているのが現状である。今後、現在のダウングレードリサイクルだけでは貴重なアルミニウム資源循環システムを維持できなくなることが予想されることから、アップグレードリサイクルとも呼ぶべき、より高度なリサイクルシステムを一日も早く確立することが重要である。 さて、アルミニウム合金のリサイクル時には不純物元素として鉄の混入が避けられない。鉄の混入は板材の成形性や強度など力学的特性を大幅に低下させるため、従来、溶解前のスクラップの分別強化、溶融状態での不純物除去技術の開発が行われてきたが、最近は、ある程度の鉄の混入を前提としたリサイクルシステム構築の必要性が認識され、鉄の混入量増加を想定したアルミニウム合金スクラップの不純物無害化技術の開発が注目を集めるようになってきた。 スクラップの不純物無害化技術のひとつとして直接連続鋳造法が注目されている。直接連続鋳造は数十mm以下の厚さの板材を溶湯から直接鋳造する方法であり、DC鋳造に比べ凝固時の冷却速度が大きい。そこで急冷凝固効果による特性の向上を期待し、スクラップ溶湯を想定して鉄を増量した6000系合金について、横型の双ロール式連続鋳造圧延法を用いた板材製造が試みられている。しかし、横型の双ロール式連続鋳造圧延法では、冷却速度、鋳造速度に限界があり、また生産性も低いことが指摘されている。これに対し、羽賀らによって提案されている縦型の高速双ロールキャスターは、凝固時の冷却速度が非常に大きく、かつ鋳造速度が従来法に比べ一桁以上大きいため、非常に高い生産性が期待できる。強くて優しい社会基盤材料をつくる ─ 縦型高速双ロールキャスト法による材料開発 ─東京工業大学 大学院理工学研究科教授 熊井 真次

元のページ  ../index.html#63

このブックを見る