公益財団法人 軽金属奨学会 設立60年史
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58性が同時に向上することである[19]。寺田らは、ARB加工したA6061合金で強度・延性ともに向上することを報告している[14]。すなわち、結晶粒微細化強化と析出強化を同時に実現できる場合は、強度と延性に優れたアルミニウム合金が作り出せる可能性があることを示している。2-5 プロセスの連続化・大型化 「産」の意向を重視しながら進めるJST産学共創事業は、原理や指針の構築のみならず、試料サイズをスケールアップして、より現実的な条件に適合させることが重要となる。HPT法では円盤状試料を用いることから試料サイズが限られるが、著者らは高圧付加しながら線材やリボン状板材を連続的に加工できるプロセスを提案している[20, 21]。また、板材や棒材を高圧付加のままで巨大ひずみ加工できる高圧スライド加工法(HPS: High-Pressure Sliding)も提案している[22]。図27はこのHPS装置でA7075合金の結晶粒を超微細化し、時効処理で高強度化が図れることを示したものである[23]。また、図28に示すように、結晶微細化した試料では、室温で引張試験をすることにより750MPaに及ぶ強度と約5%の塑性伸びが観察される[23]。現在、戦略的基盤技術高度化支援事業(通称サポイン事業)のもとに500トン級のHPS装置を開発している。装置は現在のものと比較して10倍大きいことから、大きさが30×100mm2の板状試料の結晶粒超微細化が可能となっている。3.おわりに これまで、結晶粒微細化強化と析出強化の両立性について一部Al-Ag系で成り立つことは分かっていたものの[12, 24]、市販の熱処理型アルミニウム合金でどこまで実現できるのか分からない状況で統合適先端研究を開始した。合金種によって両立性の難易はあるものの、基本的に成り立つことが分かった[7]。しかしながら、続くJST産学共創事業では新たな課題も生れている。すなわち、加工度が大きい時は析出による強化量が小さいことである[9, 10]。どのようにしてこのような問題を解決していくかは今後の課題である。また高強度材開発の目処として、スピノーダル分解図27(a)室温と373 KでHPS加工したA7075合金の373K時効に伴う硬さ変化。溶体化材の時効も含む。(b)縦軸の拡大。[23]図28室温と373KでHPS加工したA7075合金とその373K時効材の応力-ひずみ曲線。[23]

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