公益財団法人 軽金属奨学会 設立60年史
49/102

47展伸材の開発とその合金設計指導原理の確立」というものである。もし、統合的先端研究をもとにした基礎知見がなかったら、JST産学共創事業への応募はできなかったことは確かである。研究の「芽」の状態で軽金属奨学会から寛大に支援いただいたことに、関係者一同感謝している次第である。 統合的先端研究での研究成果や関連の世界的情勢は事業報告書や軽金属誌にまとめている[7,8]。ここではその後の研究成果を紹介する。2.新たな展開 これまでの統合的先端研究によれば、巨大ひずみ加工で結晶粒微細化した熱処理型アルミニウム合金を時効によってさらに高強度化するには、時効温度の低下やマイクロアロイングが効果的であることが示された。また、新たにスピノーダル分解の活用が有効であることが提案された[9,10]。2-1 時効温度の低下2-1-1 Al-Mg-Si系合金 時効析出は熱活性化過程であるため、時効温度を下げることによって析出がゆっくり進行する。巨大ひずみ加工で多量の格子欠陥が導入された状態では原子の拡散速度が著しく速くなり[11]、時効温度を低下させることは効果的となる[12]。 図1はA6022合金(0.57Mg, 1.02Si, 0.17Fe:単位はmass%)を(a)室温(298K)、(b)343K, (c)373K, (d)443Kで時効した時の硬さ変化を時効時間に対してプロットしたものである[10]。試料には、このA6022合金を823Kで60s溶体化処理した状態、この溶体化材を圧下率30%で室温で圧延した状態、および室温で6GPaのもと5回転HPT加工した状態で使用した。圧延材とHPT材で導入された相当ひずみはそれぞれ0.41と>100となる。時効開始前の硬さは、それぞれ45, 80, 160 図1A6022合金を(a)室温(298 K)、(b)343 K, (c)373 K, (d)443 Kで時効した時の硬さ変化。試料には、溶体化状態(823 Kで60 s 間溶体化処理)、圧延状態(圧下率30%)、HPT加工状態(室温、6 GPaで5回転)のものを使用。[10]

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る