公益財団法人 軽金属奨学会 設立60年史
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13第1章 財団設立の経緯トップとして、「業界発展のためにはアルミニウムに関する学術の研究や教育を助成する財団をできるだけ早く設立すべきである」との持論を展開していた。しかし、大きな予算がからむ割には、すぐに自社の利益に返ってくる実利的な話ではないだけに、業界各社の腰も引け気味で、構想はいっこうに前に進む気配がなかった。 業を煮やした小山田はついに、東洋アルミニウム単独でこの事業に取り組もうと覚悟を決めた。そうなると、小山田の行動は素早い。会社の大株主であるアルキャン本社があるカナダのモントリオールに飛び、「東洋アルミニウム会社設立25周年の記念事業として、業界に資する研究や教育を助成できるような財団をぜひ設立したい」と、幹部にかけあったのである。 アルキャンは、世界最大のアルミニウム会社であるアルコアから1928年(昭和3年)に分離独立したカナダ法人で、1931年(同6年)に住友との折半出資で、東洋アルミニウムの前身である住友アルミニウムを設立したパートナー企業である。 アルコア創業者一族のデビス家が経営するアルキャンは、国際感覚に優れ、世界各地に展開する現地法人の自主経営を尊重するパートナーシップにも富んでいる。教育や文化などに対して理解の深い欧米企業にとって、小山田の話はやぶさかではないし、むしろ大いに共鳴できるものであった。「小山田さん、その財団はぜひつくりなさい。我々としても資金面などで、できる限りの援助は惜しみませんよ」 アルキャンの経営トップたちは、小山田の提案に快く応じてくれた。「これで、長年の夢が実現できる」 一気に視界が晴れた気分になった小山田は、帰国するやただちに、総務課長代理の上谷を財団設立の責任者に任命したのであった。「この件に関しては、内外からの無用の詮索を避けたいので、財団が設立できるまでは上谷君、君ひとりだけでことに当たってくれたまえ。本件に関しては、社長直属の案件とするから」 小山田の指示にうなずいたものの、財団の設立などとはまったく無縁の部署を歩いてきた上谷の頭は混乱をきたしていた。「財団法人の設立なんて、どこから手をつければいいのか…。第一、私ひとりでできるのだろうか」 上谷の困惑をよそに、小山田の言葉が追い打ちをかけてきた。「再来年4月が我が社の25周年だが、財団の設立はそれよりも早い方がいい。できれば年内、遅くとも来年1月には設立できるように進めてくれるかね。頼んだよ、上谷君」 もとより、小山田社長の言葉に反駁することなどできるはずもない。とりあえず「はい」と返事をして、社長室をあとにした上谷は、ビルの窓かアルキャン・アルミニウム・リミテッド 本社(1980年代)八尾工場を視察するデビス社長(中央)と小山田社長(中央左)

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